第1章

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「あたしの子どもよ。嫌う訳があって?」 「……なにを、今更」 馬鹿ですか、と吐き出すように言って、ずかずかと部屋のソファに近寄り、座り込みました。 「ていうかコーヒーまだですか」 「あら、長居するつもりはないんじゃなかったの?」 「たまには親の言うことも聞かなきゃですよ」 灰色のコートを脱いで隣に置きました。膝を抱えて、パタパタをキッチンを行ったり来たりしている母を眺めます。 「かあさん」 「なによ」 「何故わたしたちを捨てたんですか?」 「だって、あたしみたいな淫売に育てられるよりいいかしら、って。ちゃあんと下調べしてから入れたのよ」 「そんな自慢気に言われても」 「あら、やだ。あなた黒のワンピースなんて着るの」 「……それがなにか」 かちゃかちゃとカップを並べながら、母が少しまゆをひそめました。 「黒なんて、ローティーンの女の子は着ちゃ駄目。明るくて、朗らかな色を着なくちゃあ」 「それ、あなたの持論では?あ、お砂糖ふたっつ」 「お砂糖くらい自分で入れなさい。そうよ、あたしの持論だけど、ねぇ、たまには親の言うこと聞くんだったら、もっと明るい色の服着なさいよ。おぼろは肌白いし、似合うわ」 「なに着たって、わたしは似合いますよ。残念ながらうつくしく産まれましたので」 「そうね、おぼろ、あたしそっくりに育ったのね」 母の、表情は、 喜んでるのか、 哀しんでるのか、 解らない。 「……かあさん」 「なあに」 「……」 「……」 「……ふふ」 「……ふふ」
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