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「あたしの子どもよ。嫌う訳があって?」
「……なにを、今更」
馬鹿ですか、と吐き出すように言って、ずかずかと部屋のソファに近寄り、座り込みました。
「ていうかコーヒーまだですか」
「あら、長居するつもりはないんじゃなかったの?」
「たまには親の言うことも聞かなきゃですよ」
灰色のコートを脱いで隣に置きました。膝を抱えて、パタパタをキッチンを行ったり来たりしている母を眺めます。
「かあさん」
「なによ」
「何故わたしたちを捨てたんですか?」
「だって、あたしみたいな淫売に育てられるよりいいかしら、って。ちゃあんと下調べしてから入れたのよ」
「そんな自慢気に言われても」
「あら、やだ。あなた黒のワンピースなんて着るの」
「……それがなにか」
かちゃかちゃとカップを並べながら、母が少しまゆをひそめました。
「黒なんて、ローティーンの女の子は着ちゃ駄目。明るくて、朗らかな色を着なくちゃあ」
「それ、あなたの持論では?あ、お砂糖ふたっつ」
「お砂糖くらい自分で入れなさい。そうよ、あたしの持論だけど、ねぇ、たまには親の言うこと聞くんだったら、もっと明るい色の服着なさいよ。おぼろは肌白いし、似合うわ」
「なに着たって、わたしは似合いますよ。残念ながらうつくしく産まれましたので」
「そうね、おぼろ、あたしそっくりに育ったのね」
母の、表情は、
喜んでるのか、
哀しんでるのか、
解らない。
「……かあさん」
「なあに」
「……」
「……」
「……ふふ」
「……ふふ」
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