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一体なんだったんだろう。
俺はぼんやりと天井を眺め考えていた。結局別れ話もうやむやに「じゃあ、明日体育館で」と言われて電話は切れた。
奥寺が何を考えているのかさっぱりわからない。しかも明日体育館でってのは、今やったばっかりなのに明日もやろうって事なんだろうか。思わずため息がこぼれた。何度か寝返りをうっても眠気はなかなかやってこない。ついさっき耳元で囁かれた奥寺の卑猥な言葉が脳裏をよぎって、どうも体が火照ってしまう。
「人のこと言えねーし…」
そう呟いて目をぎゅっと閉じ眠る努力をした。
何を考えたら眠れるだろう。瞼の裏には奥寺の艶っぽい表情が何度も浮かんでくる。
奥寺は何を思って電話してきたんだろうか。性的に好きかどうか、なんて俺は考えた事がなかった。
一年前まであいつは"ゲーセンでたまーに見かける奴"と言う認識だった。そのうちに"数学の少人数教室で一緒の奴"だと気づき、小テストを返された時"奥寺"と呼ばれたのを聞いて苗字を覚えた。奥寺はたまに塾をサボって俺の行きつけのゲーセンに顔を出し、つまらなそうに対戦ゲームの筐体を眺めるかパズルゲームをやっていた。
あいつの名前を認識した頃から、俺は奥寺をよく目で追うようになっていた。背はさほど変わらないけれど奥寺の方が少し高くて、頭もそこそこ良く、運動もそこそこ。何もかもそこそこ人よりできるが目立つほどというわけじゃない。
そんなそこそこなあいつの秀でた部分を俺は知っていた。奥寺はすごく目がいい。いつかの授業時間、5階の少人数教室の窓から外を眺めていた奥寺が、突然微笑んで軽く手を振りだした。隣の席の奴が「誰がいんの?」と問いかけると奥寺は「校門に伊藤が居たんだよ、重役出勤だよなぁあいつ」と笑って答えた。5階の窓から校門まではかなりの距離がある。その距離で誰が誰か判別がつくのだから、おそらく視力は2.0以上いやもっとあるだろう。コンタクトをはずすとほとんど見えない俺はそのやりとりを聞いて羨ましく思っていた。
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