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遠くまでよく見える、切れ長で少しつり気味なあいつの目に俺はどんな風に映っているんだろう。今でこそ見慣れた奥寺の細い目と若干乏しい表情が、一年前は不安でたまらなかった事を思い出す。
俺は中学の頃一度人間関係で失敗した事があって、それから無表情なやつと喋るのが苦手だった。かと言ってあっけらかんとすぐに誰かと仲良く出来るほど俺の心は癒えてはなくて、高校に入ってからあえて孤立する事を選んだ。自由な校風に甘え髪を染め、煙草を吸って、あまり人がかかわってこないように振舞った。その結果、大抵の奴らは扱いにくい俺を蔑むようになった。
そんな俺に、奥寺がどうして「付き合えよ」と言ってきたのか。軽い気持ちでセックスして使い捨てするのに丁度いいと思ったのか。いくら考えても理由はやっぱりわからない。
別れようと言ってみたり、フェアじゃなく気負いしていると言ってきたり、電話で体を求めてきたり、いつだってあいつは俺を振り回す。
なのに俺は、どうしてこんなに、明日奥寺と会える事が楽しみで仕方ないんだろう。
俺は奥寺を、あいつの事を好き……だ。多分。
そうはっきりと自覚した。性的にとか関係なく。
*
「奥寺は今日休みだよ」
「え?」
「忌引だってさ~、き・び・き」
教室の入り口の近くで弁当を食べていた確か野球部の…名前も知らない奴がけだるく答えた。
体育館倉庫で10分も待ちぼうけを食らい、イライラしていのが馬鹿みたいだ。
「柏葉だっけ、奥寺と結構仲いいの?」
「…んー、まぁまぁな」
「じゃーさ、プリント持ってってくんね?」
「え」
どうやら奥寺は祖父を亡くし忌引で三日間休むらしい。三日後の金曜は祝日で土日を含むと三連休、忌引と合わせると6日間も学校を休む事になってしまう。そして連休明けは定期テストの初日だ。プリントはテスト範囲も含まれていた。
「俺、奥寺んちから駅3つでわりと近くに住んでる方なんだけど、柏葉が仲いいなら持ってってやってくれよ」
そう言って野球部のなんとかは半ば強引にプリントを押し付けてきた。
奥寺の家は俺のよく行くゲーセンのある駅が最寄りだと聞いていた。確かその駅前にある塾にあいつは通っているはず。俺の住む駅と同じ沿線の、大きな川を超えて5つ離れた駅だ。たいした距離じゃない。でもあいつと付き合ってから1年も経つのに、あいつの家には一度も行った事がない。
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