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駅員のアナウンスが聞こえ顔を上げると、丁度奥寺の家の最寄り駅に到着したところだった。俺は慌てて電車を降りた。屋根の無いホームを歩きはじめてすぐ、右手にポツリと冷たい感覚が当たる。天気予報通り、11月の冷たい雨がしとしとと降り始めた。駅を出てから、学校に傘を忘れた事に気がついた。
奥寺
-キシロ、ゲーセンの前で待ってて、迎えに行くから。
10分ほど歩いてゲーセンの前に着いた頃、俺はもうずぶ濡れで、慌てて走ってきた奥寺が急いで傘の中に俺を入れた。
「傘持ってなかったのかよ。言えば駅まで迎えに行ったのに」
「打つの面倒だったから返信しなかった」
「馬鹿だなぁ、寒くね?」
「寒い」
大きな水色の傘の下、肩がぶつかるぐらい奥寺と寄り添って歩いた。ほどなく住宅街に入るとひとけはほとんどなくなり、雨脚も強く自然と俺達の足は早まった。
奥寺の家は一年前初めてキスした親水公園からさほど離れていない場所にあった。自宅から5分と離れていない場所で男の俺とキスしたのかと思うと呆れてしまう。誰かに見られたらどうしようという不安は無かったんだろうか。
「キシロ、風呂入る?」
振り返りもせず玄関の鍵を開け奥寺が言った。
「借りていいの?」
「いーよ、別に」
ドアを開けるとごく普通のそこそこいい家の玄関が見えた。そこそこ良い、何においても中の上といった奥寺らしい家だと思うと、笑いが零れた。
「何笑ってんだよ、入れって」
玄関に入ると奥寺はすぐにドアの内側から鍵をかけた。靴箱の上に置かれた時計に目をやると2時を少し過ぎたところだった。意外と学校から近いのか、なんて考えていると、奥寺はそそくさと部屋の奥へ入りバスタオルを持って戻ってきた。
「風呂のスイッチ入れた、それまでこのタオルで体拭いとけ」
「うん」
「オレの部屋寒いから、居間で待ってて」
「わかった」
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