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「八千六百四十円です。…ありがとうございました」
「はい」
受け取った袋の中から一つ取り出し、ヤンに差し出す。
下を向いていた黒曜石の瞳が訝しげに私を捕らえた。
「あげる。友チョコ」
「友チョコ?」
「知らないの?日本語の勉強するなら日本の文化も知っとかないと。…って言っても、私も誰かに友チョコなんてあげるの初めてだけどね」
友達でもないヤンに渡すなんて、間違っているかもしれないけど。
まあいいや、とその胸に押し付ける。
するとヤンの形の良い眉がキュッと寄った。
「ん?なに」
「……」
ヤンはカウンターの向こうに屈むとビニール袋を引っ張り出し、私に差し出す。
薄いビニールだから、中を広げなくても私が買ったチョコレートと全く同じ物が入っていることがわかった。
「僕からの、バレンタインのプレゼントです」
「え?」
驚いて顔を上げると切れ長のヤンの瞳とぶつかる。
「まさか趣味が被るとは思いませんでしたが」
「何でヤンが私に?」
「今日はバレンタインですから」
「うん、バレンタインだけど」
…まさか男のヤンから友チョコを貰うとは。
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