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ヤンが白い息を吐きながら、私の頭に積もったのであろう雪を丁寧に払い落とす。
ヤンだってどんどん積もってきてるのに。
仕事中なのに。
「バッグとか靴とか貰う前に、その冷えた手を何とかしてくれる彼氏は居ないんですか」
「…いない、かも」
「でしょうね」
ヤンが素っ気なく言った。
相変わらずの仏頂面からは感情が読み取れないけど、何故だか嫌じゃない。
見上げれば顔に雪が落ちてくる。
冷たくて、妙に火照った頬に気持ち良い。
ヤンの瞳は、やっぱり雪に映えて綺麗だった。
「ヤンって雪が似合うね」
「僕がですか?」
「うん。初めて会った時から思ってた」
「雫の方が雪が似合いますよ」
「え?私?」
「初めて会った時から思っていました」
ヤンの言う「初めて」と私の思う「初めて」は違うかもしれない。
…だけど何故か、一緒のような気がした。
「…わっ」
腰をスルリと撫でられたような感触に下を向くと、コートのポケットから赤いものが顔を出しているのが見えた。
花弁にふわりと雪が乗り、朱色を際立たせる。
「…薔薇?」
それは一本の薔薇だった。
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