24人が本棚に入れています
本棚に追加
「自国の文化が全てだなんて思わないでくださいね」
「え?」
その意味を聞こうとしたのに、ヤンは「話は終わりだ」と言わんばかりに私から目を逸らし店内の時計を見る。
「時間は大丈夫ですか?」
「あ、うん。もう行かないと。…お花、ありがとう」
「いえ。では」
ヤンは自分の肩に降り積もった雪を払い落とすと私に背を向け、さっさと店内に戻る。
その背中はすっかりいつもの無愛想な店員だ。
「……」
…ヤンの人物像が、さらにわからなくなってきた。
そう思うのは、私が知ることを欲してしまったからだろう。
手袋と薔薇を眺めていると胸の奥からじわじわと疼きが込み上げ、口元が緩んでくる。
バッグの底から着信を知らせる無粋で不快な音がした。
それが綺麗な雪夜を台無しにしているようで、気付かない振りをしながら公園に向かいゆっくりと歩き出す。
雪の中、想うのはヤンの黒曜石のような瞳だけだった。
最初のコメントを投稿しよう!