24人が本棚に入れています
本棚に追加
「…最悪」
降ってきた大粒の雨に顔をしかめる。
逃げるようにコンビニの屋根下に入り、濡れてしまったお気に入りの白いコートをハンドタオルで拭いた。
持っていた紙袋は持ち手を乱暴に振って水滴を落とす。
無駄に大きなそれは、ガサガサと色気のない音を立てた。
…この荷物、邪魔。
放り出したい気持ちになったが、この中に入っているバッグの存在を思い出すと渋々と肩に担ぎ直した。
その時、丁度店内から出て来た店員と目が合う。
「……」
「……」
店員は無言で私の前を通り過ぎ、外付けのゴミ箱を開けると掃除を始める。
普通は「いらっしゃいませ」って声を掛けるんじゃないのか。
店内に入らないから客扱いをしないのか。
せめてその不機嫌に見える仏頂面をやめて欲しい。
私はこの男を知っていた。
いつだったか、彼氏と街を歩いていた時、すれ違った男だ。
今日みたいに雪の降る夜だった。
すれ違って、今みたいに目が合った。
それだけ。
ただ、彼は目立っていた。
よし、と気合いを入れ、紙袋を傘代わりに雨の中を駆け出す。
背中にあの店員の視線を感じた気がしたけど、振り向かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!