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いつもと違う時間にコンビニへ行くと、バイト開始前の彼が私服で漫画の立ち読みをしていた。
私服が地味過ぎて、声を掛けられるまで気付かなかった。
「ムチプリ、ってどういう意味ですか?」
「……」
微エロの萌え漫画を読んでいる時も、彼は表情を崩さないらしい。
それどころか恥ずかしげもなく質問してきた。
不機嫌そうに見えるのは理解できない言葉があったからだろうか。
日本語が完璧だと思っていた彼でも、造語や漫画の効果音のニュアンスなんかが上手く汲み取れないらしい。
「らめぇ、は?」
「ダメってことでしょ」
「たゆんたゆん、は?」
「……ねぇ、違う本にしない?この本、たぶん、あんまりためにならないよ」
覗き込んで説明しているうちに、気付けば肩が触れ合う距離にいることに気付いて心臓が跳ねた。
「そうですか」
彼は本を棚にしまうと今度は別の漫画を手にした。
「…李さん、勉強好きなんだね」
「炎彬(ヤンビン)」
「え?」
「名前です」
「……」
動揺を悟られないように彼の横顔から視線を外す。
「…雫」
「しずく?」
「私の名前」
寒くもないのに、窓の外には粉雪が舞っていた。
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