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そして二月十四日。
今年も忙しいバレンタインがやってきた。
私にとって、一年で一番多忙な日だと言っても過言ではない。
今日の予定を頭の中で確認し、重い溜め息を吐きながらコンビニに入る。
可愛くラッピングされたチョコレートを並べるヤンの後ろ姿を見つけると億劫な気持ちも吹き飛んだ。
「ヤン」
「…こんにちは、雫」
「お疲れー。ヤンが並べてるやつ、貰うね」
陳列したばかりのチョコレートを一箱取り、ヤンが私に差し出す。
「どうぞ」
「あ、もう七箱欲しい」
「……」
ヤンは無言で箱を積み重ね、それをレジまで運んでくれた。
「八箱かよ!」とかツッコむ技術はまだ持ち合わせていないらしい。
いや、技術の問題じゃないか。
ヤンは私が百箱買おうが千箱買おうが、きっと何も詮索してこない。
レジへ向かうヤンの背中を眺めながら、つくづく私とは別世界の人間だなぁと考える。
…最近、たまにそんなことを思う。
こんな時は好きなものを思い浮かべて深呼吸をするのだ。
新作の洋服やアクセサリー。
時計にバッグに財布。
大人の彼氏の内ポケットから出てくる、何でもできるキラキラしたカード。
うん、いいよいいよ。
色恋なんかより、よっぽどいい。
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