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十月十日
その日の夜は月と星の光が溢れんばかりに輝いていた……そんな夜だった。
光が病室の窓に射し込み、一人の少年の影が壁に伸びる。
しかし、その影は次第に形を歪めていった。それも何度も、何度も。
内側から燃えるような痛みが身体を襲う。頭に大音量のノイズが響き、脳が破裂しそうだった。身体の器官が全て麻痺し、息を吸うのが苦痛となっていた。
少年は苦しみを耐えるかのように身体を丸め、歯を食いしばる。
その所為か、体中の毛穴から汗が吹き出し服は勿論のこと、枕やベッドに水染みが出来ていた。
大人でも根を上げてしまう程の苦痛、12歳の少年にとっては地獄のような日々でもあり、それが日常でもあった。
少年は生まれた時から身体が弱かった。
弱かったといっても一般胎児に比べると身体的な未熟や免疫力が低いという事であり、それを除けば普通の赤ん坊だった。
未熟だった身長や体重も歳を重ねるごとに増えていき、5歳の時には普通の子どもと同じように遊ぶことが出来るようになっていた。
しかし、それはある日を境に崩れ落ちた。
その日は幼稚園の入園を控えた一週間前の事だった。
母親と公園で砂のお城を建てていた時のこと、目の前の景色が突然歪み、作りかけのお城へと倒れた。
少年は薄らであるがその時のことを覚えていた。
激しい吐き気と眩暈、炎の中にいると錯覚してしまう程の発熱、そして、母親の狼狽えた悲鳴が今でも耳に焼き付く。
目を覚ましたらそこは病室だった。
無機質な白い壁紙、鼻孔を刺激する薬品臭、最悪な目覚めだった。そして、その日から少年、九条優の人生は少しずつ変わっていった。
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