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その中でも、優には一番お気に入りの遊びがあった。それは本を読むことであった。
本の中にはたくさんの物語や世界が詰め込まれていた。
勇者がお姫様を助ける物語、少年が世界中を旅する物語、それは優を興奮させるものだった。
本を読んでは、その本の登場人物の真似をよくしていた。
しかし、本で外の世界を、沢山の森林に囲まれた山や、一面の空の青を鏡のように照らす海、自分と同い年の子供達が遊ぶ学校、公園、遊園地などを知ってしまうと、優はどうしても外に出たくなり、外の世界を知りたくなった。
一度だけ、一度だけ外へ行きたい。その気持ちが日に日に溢れ、ついに、優は外へ出ようと決心した。
しかし、優の病気は外へ出す事を許さないかのように拒絶した。
病室を出て、出口のある廊下を歩いていると足が痙攣したかのように震え、自身でのコントロールが出来なくなっていた。
けれども、どうしても外に出たいという気持ちが強いのか、手すりにしがみ付き、足を引きずるように前へと進んでいく。
不意に立ち眩みが遅い、手すりから手が離れ、前のめりで倒れこんだ。
ゴンッと鈍い音が頭の中と耳から伝わる。しかし、不思議と痛みはなかった。いや、痛みが無かったのではない、痛みが感じられなかったのだ。
身体の感覚だ既に麻痺しており、痛みはおろか、自分がどうなっているかも分からない状態、しかし、優は力の入らない手を伸ばし、少しでも前へと進もうとするが、すでに優の気力は限界であり、最後に見たのは、どこまでも薄暗い灰色の景気だけだった。
気が付けば、優は病室のベッドで寝ていた。
しかし、その時までは外へ出る事を諦めておらず、慌てて起き上がり、外へと向かおうとするが、優はそれ以上動くことは出来なかった。
優の瞳にはベッドに蹲って泣いている母さんの姿が映った。
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