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沖田総司という男はどこに行っても沖田総司らしい。
北へと敗走を続けた旧幕府軍はいよいよ最北の地、蝦夷へと足を踏み入れた。
そこは極寒の地。
すぐにやって来た冬は想像を絶するものだった。
誰もが経験したことのない寒さに身体を震わせる中、一人外へ飛び出して行ったのは総司だった。
「これほどの雪は見たことがありません」
嬉しそうにそう言うと、箱館奉行所の前に大きな雪だるまを作ってみたり、そこを出入りする者にどこからか現れては雪玉を投げつけてみたりと周りを閉口させた。
「いい加減にしないか、総司」
見かねた土方が嗜めてもどこ吹く風。
「雪玉を避けられないくらいでは鉄砲相手にひとたまりもありませんからね」
悪びれる様子もなくケラケラと笑う有様で、土方は更に頭を痛めた。
けれど、そんな総司に感謝している者は少なくなかった。
こんな雪国まで追い詰められ、負け続きのうえにこの寒さである。
戦う意志も生きる気力も誰もが失いかけた。
そんな中、何故かいつも楽しそうに笑っているのが総司だった。
彼は蝦夷へ渡る船の中でもここへ来てからも、何かにつけては冗談を言って笑った。
この状況において笑える者などそうそう居ない。
けれど、総司は何がそんなに楽しいのかと思うほどに笑うのだ。
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