1.妖精の指輪

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 その後もしばらくいつも通りに働き、気づけば後30分程で上がりだった。 「ふぅ、あと30分か。  確かセリも同じだっけ?」 「はい。  あ、あのそれでもしよろしければ一緒にーー」  セリの言葉を遮るように自動ドアが開きお客さんが入ってきた。  当然マニュアル通りに挨拶を発する。 「いらっしゃいませ」 「いらっしゃーー  うげ……」  良く見知った黒髪の少女が入店してきた。  そして逃げる暇なく、目が合ってしまう。  まるでゴルゴンの瞳のように、その場から動けなくなってしまった。  心中で盛大な溜め息をつき、 「セリ、ここは俺が受けるからラウンドしてきてもらっていい?」 「……わかりました」  俺の態度を訝しげに見つつも、セリはダスター(布巾)を持って客席へ向かった。  ちなみにラウンドとはテーブルを拭いたり、椅子を直したり、ゴミを変える仕事である。  俺はカウンター前まで歩いてきた少女に、精一杯の作り笑いを浮かべる。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 「ええ、店内でホットコーヒーとアップルパイ。  砂糖とミルクはいつも通りで」 「はいはい。  お会計200円です」  会計を済ませると、少女は口を開いた。
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