1.妖精の指輪

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「じゃ、セリも気を付けて帰るんだぞ」  休憩室にて軽く雑談を交わした後、勤務中に来た少女を迎えに行くため、長居せずに出て行こうとする。 「はい。でしたら送って……たら……のに」 「ん?」 「何でもありません。  お疲れ様でした」 「お、おう。お疲れ」  機嫌治ったかなと思っていたけど、まだ少し悪いな。  あまり刺激せずに退室するとしよう。  休憩室を後にし、再びワクドの店内へ。  もちろん従業員用の出入口ではなく、お客さん用を使用する。  カウンターにいる店長へ軽く会釈をし、客席を見回す。  すると小説を開いている例の少女を発見し、近付いて声をかける。 「悪い、待たせたな陽菜」 「別に問題無いわ。  面白いものも見せてもらったしね」  この烏の濡場のように艶やかな黒髪の少女は、紫之宮陽菜(しのみやひな)。  セリと同等以上の美人であり、年齢は俺と同じでありながら落ち着いた雰囲気を持っている。  実際に冷静沈着な性格であり、頭の回転も非常に早い。  仕事仲間として頼りになる存在である。  今日は白のブラウスに薄いピンク色のカーディガンを羽織り、黒を基調としたスカートを纏っている。
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