僕と彼女と

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屋上の柵の外に立ち尽くし、 長い髪を揺らす彼女がいた。 「っ!?」 あまりの衝撃に声が出ず、 ただ、彼女を見ていた。 そして、後ろで屋上の 扉が閉まる音と同時に、 彼女の視線が僕に向けられた。 「………」 「…ねぇ… …危ないよ?」 彼女もわかっているだろう。 そもそも、危ないという事なんて 誰でもわかっているはず。 それなのに、彼女がそこに いる理由は一つしかなかった。 「…怖くないの?」 「………」 彼女は僕から視線を逸らさず、 何も喋らず、立ち尽くしていた。 「………あぶな…っ」 また強い風が吹いて、彼女の 体が少し揺れた。 いつの間にか僕は彼女に 向かって駆けていた。 「間に合って…っ」 伸ばしていた彼女の手を 引いて、抱き寄せる。 間一髪で、彼女が落ちる前に 僕は引き止める事ができた。 すぐに彼女を持ち上げて、 柵の内側へと移動させた。 「…大丈夫?」 彼女は小さく口を開き、 だけど、何もいわなかった。 「………?」 そして、普通はないはずの ポケットから紙を取り出し、 僕に見せた。 『こんにちは。』 その小さく、可愛い文字の意味に、 僕はすぐに返事をした。 「こ、こんにちは。」 ――――これが、僕と彼女が 出逢った、最初の一日だった。
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