僕と彼女と

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「ふぅ…」 病室の扉の前でため息をついて、 そして扉に寄りかかる。 また、家に帰って一人で、 暮らしていかなくちゃいけない。 そんな日々は楽しくない。 僕はまた本を取り出し、 そして歩きながらも、 本を読み始めた。 これくらいしか、娯楽がないし、 寂しさを紛らわせられない。 すると、前から来る 何かに気づいて、 視線を向けた。 夕焼けに染まって、朱色に 輝く、長い髪。 秀麗な顔立ちに、綺麗な 白い肌が見えていて、 お淑やかな印象を受けた。 病衣を身に纏い、車椅子を 手で回しながら、目を瞑っていて、 ただ、真っ直ぐ移動していた。 「………」 ―――見惚れていた。 彼女も病気なのだろうか? そして、彼女は目を開け、 僕と目があった。 「…っ」 優しい視線に、僕は 何故か視線を逸らし、 立ち止まってしまった。 だが、彼女は気にする事なく、 僕の横を通り過ぎた。 「………」 後ろを振り返ると、全く 動かない人形かのように、 ただ、真っ直ぐ移動していた。 「…あんな子、いたっけ?」 お母さんが肺がんになって 数年間毎日通っている。 あんな子、見たことなかった。 「…まぁ、いいか」 どうせ、あの子とは 関わる事はないし。 いつも通り、家に帰って、 ご飯を食べて、風呂に入って、 寝よう。 「お母さん、大丈夫かな」 さっきまで隣にいたお母さんが いなくなった事で心配に 思いながらも、僕は家に帰った。
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