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(お前さん、ちったぁ笑ってみたらどうだい。)
「笑う…わらう…か…」
橋のたもとに凭れ掛かり、水面に映る自分の顔を見つめる。
そこにいるのは、人形のような顔をした、お世辞にも愛嬌も愛想もない顔。
ふと、帯に挿していた菖蒲の根付を手に取る。
(花も人も千差万別。にこやかに笑うだけが、女の美しさや愛らしさではないよ。)
「総馬様…」
口をついた名前と同時に、雪の日に見た真っ赤な牡丹とある記憶が甦る。
腕の中で冷たくなっていく赤子。
皸が弾けるまで叩いた扉の向こうで、蔑みや下衆な笑いを浮かべる男。
そして…
『阿片だってよ。可哀想に…』
『きっと、もて余した末に殺したんだよ。怖いネェ…』
『何が仁術だ。人殺し。』
「医者は、嫌い…」
恨めしそうに呟いて、紗英はもと来た道を歩いていった。
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