倖花町

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    「そやし、それはあんさんのわがまんまにゃろ?」 「だね。お紗英さんにゃ、何の咎もないね。」 「ったく、変な所で堅物だねぇ。お前わ。」 「…………」 一斉に浴びせられた非難の声に、優護は不貞腐れる。 倖花町の外れ、神田町に近い丘の上に佇む『倖花稲荷神社』 古くから芸事や商いの神を祀るその社は、人々の信仰と憩いの場所として親しまれ、天気のよい日は、多くの町の衆が輪を作り、趣味や雑談に興じる姿が見られる。 拝殿近くの賽銭箱に陣取る優護を囲むのは、倖花一の大店(おおだな)である呉服屋『箕屋(みのや)』の主人『正次郎(しょうじろう)』と、倖花稲荷神社の宮司を務める『菊和(きくわ)』。隣の神田町の敷島稲荷神社で神主をしている『春門(はるかど)』である。 「…いきなり押し掛けてきた上に、弟子にしろって言われて、納得なんてできるかィ。」 口を尖らせる優護に、狐のような面差しをした正次郎は溜め息を溢す。 「ガキやなー。」 「なんだって?!」 声を上げる優護に怯まず、正次郎は更に続ける。 「ガキにガキ言うて何が悪いん?」 「だから、なんで俺がガキ呼ばわりされないといけねぇんだっ!」 「そやし、世間さんには色々、事情言うもんがあるんや。多くを聞かず黙ぁって受け止めんのが、大人言うもんやないの?」 「だからって…」 「なんだい。そのお紗英って女(ひと)、そんなに嫌な人間なのかい?」 「誰もそこまで言ってねぇだろ春門。第一、嫌もなにも、殆んど話なんてしてねぇし…」  
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