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「なんだいそりゃ。じゃあなにかい?お前、よく知りもしない人間だってのに、嫌だ嫌だと駄々をこねてるってぇことかい?」
「…そらあかんわ。ホンマにガキや。」
「だからっ!」
「まあまあ。」
落ち着きなさいとばかりに、静観していた菊和が、二人に掴みかかろうとした優護を制す。
穏やかで優しい面差しに勢いを挫かれ、また不貞腐れる優護の頭を軽く撫でて、菊和は口を開く。
「お紗英さんだっけ?何度か柳斎先生の言い付けでうちに来てたけど、気立ての良い、優しい娘さんだったよ?弟子にするしないは別として、一度ゆっくり話でもしてみなよ。」
「話す事なんて…俺にはねぇよ。」
「そうは言ったってねェ…」
菊和の困った顔が、優護の良心にチクリと爪を立てる。
ここにいる人間の中で、最も年長で、最も長くこの町に住んでいる菊和は、右も左も分からない東京での生活を助け、何かと世話を焼いてくれた、兄弟のいない優護にしてみれば兄分のような存在で、未だに頭が上がらない。
それでも、そんな兄分の言葉を突っぱねてでも、優護には譲れない思いがあった。
脳裏に、雪に浮かぶ赤い南天が浮かぶ。クッと、右手の拳に力がこもる。
『阿片だってよ。可哀想に…』
『きっと、もて余した末に殺したんだよ。怖いネェ…』
『何が仁術だ。人殺し。』
浮かんでは消える、蔑みの目と冷たい言葉。
何より…
「とにかく、お前らがどう言おうが、俺は…アイツを弟子にとるつもりも、ましてや打ち解ける気なんて、ねぇよ。」
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