倖花町

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    影が伸びて、辺りが茜色に染まり始めれば、境内で遊んでいた子供達は皆、両親に手を引かれて家路につく。 去り行く子供らのあどけない手のひらを見送りながら掃き掃除をしていると、石段を上がってる影が見えたので、菊和は徐に鳥居の側へ駆け寄る。 「あぁ、なんだ。律かい…」 「何だだなんて失礼ね。折角お夕飯の材料、買ってきたのに。」 上品に纏めた黒髪の後れ毛を直しながら、目下の黒子が印象的な…菊和と年嵩が同じ程の女性、律(りつ)はごちた。 「何度も言うが、食い物は間に合ってるよ。神饌(しんせん)を食すのも務めの内だからね。」 「じゃあ何か」 「ついでに言うなら、料理も間に合ってるよ。こちとら寡(やもめ)暮らしが長いからね。」 とりつく島もない菊和の言葉に、律の拳に徐々に力がこもる。 「菊さんは、私が邪魔なの?」 「そんな問いかけが出来るくらい、良い仲になったつもりはないんだけどねェ…」 「私は、菊さんが好き…好きなの!」 人目も憚らずに声を上げる、今にも泣きそうな律に動じることなく、菊和は能面のような顔で言葉を返す。 「いい大人だってのに、迷惑だってはっきり言わなきゃ、分からないのかい?」 「だって…私は…」  
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