バスケットボール

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水面に石を投げ込んだときに広がる波紋のように心に何かが広がっていく。薄く広い膜を覆っていき、私の中に何かを満たしていく。幽霊の私にはただ、擦り切れていくだけなのに、目の前でやっていることは無駄の一言に尽きる。褒められるわけでもなければ、実績が残るわけじゃない、ただ、部活をしている、していたと思い出が残るだけ、バレー部と対決したなんて、ここを出て行く言い訳になるだろう。精一杯、やって負けたと笑いたいのかもしれない、馬鹿らしいがスポーツ選手らしい発想なんじゃないかと思う。 「別に私は彼らの勝ち負けがどうなろうが構わないんだよ。どう転ぼうがそれは私達にとっては娯楽だからね。でも、ただ、眺めているのもつまらない」 「勝負の邪魔でもしようとでもしてるのか、そうなったら娯楽としては最悪だろ」 試合の傍観していた観客が、それは違うと文句を言うのと同じ行為、タブーだ。勝ち負けがどうでもいいという言葉を否定することになる。 「いやいや、私は勝負そのものに手を出すつもりはないよ。ただ、負け犬効果と呼ぶべきなのかな、負けそうな側にどうしても肩入れしたくなるだけさ」 アンダードッグ効果とでも言いたいのか、肩入れした時点で勝負の正当性は無くなってしまうじゃないか。 「まぁ、彼の身体能力を弄くるなんて手もあったが、それはつまらない、なら、どうするか、答えを言ってしまうのは教師としてはあまりしたくないことだが、君も長々と語られるのは嫌だよね?」 「わざわざ確認ありがとうよ。今すぐに消えろ」 「幽霊だから消えようがないよ。まぁ、答えは、負けそうな展開にやってきた同級生と一緒に特訓して、勝利を勝ち取るという展開さ、おもしろいだろ?」 青春小説、まさしくボーイミーツガールだねぇと男は笑う。おもしろくねぇ。 「おっさんが女装でもするつもりかよ。吐き気がするな」 皮肉混じりに言ってやった。いや、私はここから先の展開を予想できていて、往生際、悪く足掻こうとした意味もなく。 「何を言っているんだい。年老いたおっさんに高校生とバスケットなんて無理さ」 チッと舌打ちした。男がニコニコと笑いながら私の返事を待った。 人間が自分を鍛えるごとに、様々な技能を拾得していくように、幽霊も長い間、この世に止まっていると不思議な力に目覚める奴がいる。 私は体操着に着替え、パッシュを履いて入念に準備体操を繰り返す。
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