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身体にまとわりつく贅肉が重力に引っ張られ、両足が地面に縫いつけられる感覚、軽くジャンプしてトントンと足音を鳴らす。浮いたまま天井を通過することなく身体は重力に引っ張られ着地する。
生き返ったという感覚はない、どちらと言うと忘れていた感覚を思い出すほうだ。幽霊になってからは地球の重力から解放され、身体の重さと無縁の生活を送っていたからだ。
死んでいるのに、生活というのは皮肉としてはあまりにも笑えないが、これが男の能力だ。同じ幽霊を七日だけ生きた人間として日常に紛れ込ませることができる。とはいっても死人であることは間違いない、幽霊の特性、居ると思えばいるし、いないと思えばいないを強化したと言えばわかりやすいかもしれない、七日たてば人間の記憶から消える。
教室に並べられた席に不要な一つを加えて、授業に紛れ込む。子供の鬼ごっこに見知らぬ子がいても、ああ、あいつの知り合いか友達だろうなと誤解を意図的に発生させることで紛れ込む。
あの男は出会った幽霊に、その能力を使い娯楽として鑑賞するのが趣味だ。むしろ、それ以外に使う意味がないと本人は言っていた。最低と貶すことはできるが、私も人間の活動を暇つぶしと称して、眺めているため偉そうなことは言えないし、どうでもいい、時間は七日しかないのだ。よけいなことをグダグダと考える時間すらもったいない。
キュッとバッシュを鳴らして、体育館の床を駆け抜ける。めんどうな言葉を交わすつもりはなかった。少年からさっとバスケットボールを奪い取る。油断していたのだろう、あっさりとボールを奪い取ることができた。重力に反抗して、跳ね返ってくるボールを突き返して走る。身体が重い、ドリブルする手が痛いが、思い出すこれは生きているという感覚だ。ゴールポストに近寄って、シュートするために構え放つが、それよりも早く真横から手がボールを奪った。
ダムッ!! ダムッ!! とボールをつく。少年が腰をおとしながら私に笑いかけていた。チクショと思いながら私も腰を落として両手を広げて構える。
ボールは見なかった。相手と視線を合わせて、相手がどうするか伺う、小さな攻防が繰り返され、一瞬のうちに動く。バッシュが鳴り、彼が深く切り込み、突破しようとするが、私も両手を広げて邪魔をするが、慣れない身体だったため軍配は彼にあがった。ドリブルで駆け抜けて、きれいなフォームでシュートを決める。
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