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訊ねた出雲に、蓮也は「……判らない」と言った。
「実感が、無いんです……。俺が物心ついた時には、両親はいなかったから……。
俺は、姉さんに育てられた……。姉しか、家族として見られない……。だから、貴方が憎いかどうか、俺には判らない……」
だけど、と蓮也は呟く。
「姉は……おそらく円は違う。彼女は、貴方を――教会を許さない。
眼前で、両親を殺された姉の絶望が、憎しみとなって、俺の内側で渦巻いているのがわかる。
憎しみ、怒り、苦しみ、悲しみ……、ありとあらゆる〝負〟の感情が、円の糧となっている……。
その〝負の感情〟の矛先は、もう教会や出雲さんだけじゃない。無差別に向けられている。このままじゃ俺は――いや、姉は殺人鬼に成り果てるんじゃないのかって、俺は思うんだ……」
蓮也の絶望に、出雲は「だが、まだ希望はある」と言った。
訝しむ蓮也に、出雲は告げる。
「円城円には、『円城蓮也』という存在がいる。
これは僥倖だ。
彼女は〝家族〟というコミュニティに依存している。かつて家族を奪われた事によって、彼女は家族を失うのを、ひどく怖れている。
『円城蓮也』という弟が――繋がりがなければ、彼女はとっくのとうに殺人鬼に成り果てている。
だが、君はまだここにいる」
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