希望の迷宮

20/20
前へ
 /489ページ
次へ
   物憂げな表情のまま、何処か愉しそうに語る浅倉を前にして、僕の中に複雑な感情が渦巻く。  僕は、つい数時間前まで絶対悪であった彼を、今更憐れむ事が出来る様な大人ではない。かと言って、『いい気味だ』等と嘲笑える様な、非道な振る舞いを出来る程の子供でもない。  眼前の男は、此処で死ぬつもりなのだ。  僕達に絶望を与え、僕の友人達を殺し、そして、僕達を救おうとしたこの男には、もう二度と、会えないのだ。 「……」  僕は無言のまま、ゆっくりと浅倉の方へと歩いて行くと、握った拳を彼と僕達を隔てる硝子の壁に当てた。 「……? どうしました、明君」 「僕は、貴方を殴ると宣言した。それが果たせず、無念です」  本当に残念そうに告げると、浅倉は少しだけ驚いた様に目を見開くと、直後にその口許を緩ませた。 「……ふふっ、それは残念でしたね」  そう告げた浅倉に、僕は一度だけ軽く頭を下げた後、直ぐ様振り返り、叶と舞華の手を引いて彼の示した道へと足を踏み入れる。  叶の吐いたふぅ、という大きな溜め息の音と、誰が為か涙を流す舞華の泣き声に混じって、後方から『お元気で』という声が聴こえた様な気がした。  完  

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>