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日高先生はメモ帳に筆談で書きながら尋ねた。 『その時だけです』 メモ帳にひかりがそう書くと、先生はフーッとため息をついた。腕組みをし、頭を少しだけカリカリと掻くと、やがて思い付いたようにメモ帳に走り書きをした。 『一度検査してみましょうか』 その後個室に入り、15分ほど聴力検査をしたけれど、結果は芳しいものではなかった。 『その時に聞こえた音がどういったことで、そう聞こえたのか、私としては推察のしようがないのですが‥』 先生は難しそうな表情でメモ帳に書いた。 『検査の結果からすれば、聴力には特に何の変化もありません。何とも言えませんね』 最初は真剣な顔で読んでいたひかりでしたが、やがて暗く沈んでいきました。 『そうですか‥』 翌日も、その翌日も、相変わらずひかりの耳に変化が起きることはなかった。けれどまた数日後、ひかりは再び逢うことになった。
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