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それは、懐かしい匂いのする、夏の暑い日のこと。 風邪を拗らせて聴力を失って、もう十数年。保育士の夢は辞めざるを得なかったけれど、自分にはちゃんと見えるものがある。 大切な仕事だ。今日もまた会社で下請けのイラストの仕事をする。 階段を降りて、ホームに出た時。忙しなく動く通学通勤の人々の間を通って、今日もまた、いつもの位置で電車を待つ。 そうしていると。 そうしていると、あの人がくるのだ。 ひかりに気づいたようにして、とある駅員さんが近づいてきた。 『おはようございます』 駅員さんは手話で言う。彼女、ひかりは口を動かしながら、同じような手話を返した。
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