6人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
それは、懐かしい匂いのする、夏の暑い日のこと。
風邪を拗らせて聴力を失って、もう十数年。保育士の夢は辞めざるを得なかったけれど、自分にはちゃんと見えるものがある。
大切な仕事だ。今日もまた会社で下請けのイラストの仕事をする。
階段を降りて、ホームに出た時。忙しなく動く通学通勤の人々の間を通って、今日もまた、いつもの位置で電車を待つ。
そうしていると。
そうしていると、あの人がくるのだ。
ひかりに気づいたようにして、とある駅員さんが近づいてきた。
『おはようございます』
駅員さんは手話で言う。彼女、ひかりは口を動かしながら、同じような手話を返した。
最初のコメントを投稿しよう!