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わー…
わーん。
ひかりの隣で、小さな男の子が泣いていたのだ。席の辺りを走り回って転けたのか膝を擦りむいたようだった。母親の姿はない。
けれど、ひかりには到底聞こえない声だった。「ねぇ、あの人気づいてないのかなぁ?」
向かい側に座っている、女子高生がこそこそ喋っていた。
「聞こえてないんじゃないの?」
「それって馬鹿じゃん。私だったら声かけるよ」
「本当に?」
二人の女子高生は笑った。
「ねぇあなた」
どこからか来た中年女性がひかりに声をかけた。
「ねぇ!ちょっと」
トントンとひかりの肩を叩いて、女性は呼んだ。まるで音楽を聴いていたイヤホンを外すように、ひかりは驚いて中年女性を見上げた。
「何で声かけてあげないの、泣いてるでしょ?」
女性は眉を寄せて顔をしかめた。ひかりは女性の唇の形を読んで、驚いて隣の男の子を見た。
「大丈夫よ大丈夫」
中年女性は男の子の前にしゃがみこんで、傷を見た。
ひかりはあたふたして、男の子を気遣うように顔を覗き込んだ。けれど、中年女性は顔をしかめると、
「いいわよ、もう」
と突き放すように言った。
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