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いつの間に駅に着いたのか、呼び止める間もなく、ひかりの傍から男性は離れ、ホームに出て行いった。追いかける訳にはいかなかった。ひかりの勤務先はまだ先なのだから。やがてまた、ドアは閉まった。 『本当に聞こえたの?』 ひかりの隣のデスクでパンダに吹き替えを付けたイラストを書きながら、ひかりの職場仲間の詩織は手話を交えて尋ねる。この職場にやってきてまだ1年だったが、手話に興味を持ってくれたお陰で、詩織はひかりと流暢に話を出来るようになって。この職場では、一番ひかりと話している。 『聞こえたよ、ちゃんと』 手を素早く動かして伝えると、詩織はニヤリと笑った。 『心霊現象だったりして』 『あの人が幽霊だったってこと?』 顔をしかめて、ひかりは訊く。 『それとも‥‥』 考えるようにして詩織は呟いた。 『‥エスパー、とか』 呟いてから、詩織はまた今度は独り嬉しげにニヤついて言った。ひかりはそんな詩織を見て、ため息をつく。 『声‥ですか』 夕方、ひかりは帰りに近くの病院を訪れると、聴覚に障害ができて以来受診を続けている担当の日高先生に、電車での出来事を話していた。 『その時だけですか?それとも時々?』
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