第1章

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 あたしは何度もテレビを叩いたけど、どうしようもなかった。  仕方ないのでテレビを消して、帰りが遅い堅人の夕飯をラップに包み、冷蔵庫に入れてから先に夕飯を食べていた。  その時、キーィキーィと何か変な音がした。  まただ。ここに来てから、時々なんだかこのキーィキーィと何かが揺れている音がするのだ。  あたしはいつもその音が気にはなっていて、それが玄関の方向から聞こえてくることはわかっていた。  わかっていたけれど……。何故かその音の出所を探ろうとは思えなかった。 「もう、今日はお風呂入りなさい!!」  引っ越して三ヶ月位で、あたしはいい加減頭にきていた。  堅人がとうとうお風呂をサボるようになってきたのだ。 「特に汚れてないから、いいよ……」 「いいよじゃないわよ! もう4日も入ってない、汗臭い、さっさと入りなさい!!」 「じゃあ近くの銭湯に行ってくる」  はい? 何言ってんのよ!  堅人が即座に財布とタオル片手に、本当に出て行ってしまった。  あたしは、ぽかんとした。  そこまでここのお風呂を嫌がるのはどうしてなのかしら?  確かに設備は古いけど、そんな嫌な感じはないと思うんだけどな。  あたしは昼間家にいて和室を陣取り、組み立てパソコンをおっ立てて、家で仕事をしている。  時折キーィキーィという何かが揺れる音が聞こえてきたのだけれど、夕方、やっぱり気になるからその音の出所を探そうと立ち上がった。  もちろん今私がいる部屋じゃない事は確かだ。  隣のリビングでもない。その隣の寝室でもない。  廊下の先、トイレ、脱衣場、お風呂場でも聞こえない、そして玄関に立った。  玄関のところから聞こえてくると思っていたキーィキーィという何かが揺れる音は、よくよく聞くと倉庫として使っている北の部屋からだった。
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