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「一体なんの音なのよ? 何かが揺れているような不快な音」
私はちょっと、いや、かなり冷や汗が出た。音の正体さえわかれば、キーィキーィとするこの揺れる音に悩まされずに済むわけだから、そうそう。
確認すればいいだけなのよね。
ふとまたあの目を閉じて、頭の中でだけで部屋を回った時の事を思い出した。
でも今度は現実だ。
ドアノブを握る手が少し震えてくる……。
緊張してなんだか喉まで渇いてきた。
震える手で、私はえいっと、ドアを開けた。
けれど、そこはやはり倉庫と化したシン……とした暗い北の部屋。
もちろん、やっぱり何もなかった。
はぁ……。
あたしは気が抜けて、ほっ、として、リビングに戻ろうとする。
が、突如ポケットに入っていた携帯が震え、びっくりした。
『あのー救急の者ですが、今、金座駅です。こちら、御河辺のあさんの携帯でよろしいでしょうか?』
「は、はいっ!」
『ええと実はですね』
その電話は、堅人が電車のホームから線路に落ち、大怪我をした事を知らせるものだった。
「あのっ、あたしそっちに行きましょうか?」
『あっ、いいえ、それはいいとの旦那さまからの伝言です。酔ってらっしゃるみたいで』
もう終電も終わっていたので、救急の人によると堅人はその日は病院に泊まるとのこと。
翌日、シラフの堅人が病院から戻ってくると、彼は酷く疲れた顔をしていた。
そして何故ホームから線路へ落ちたのか、理由(わけ)も言ってくれない。
しばらく無口だった堅人が、おもむろに私の方を向いて呟いた。
「なぁ、のあ、あのさ……何も言わずに、俺の言う事聞いてもらってもいい?」
「なに?」
「引っ越そう……」
結局あの後、あたしは何も見なかった。
今度はぼろいアパートだけど二階の南の部屋2LDK。
堅人はまだ松葉杖をついたままなんだけど、元気に夕飯を食べてくれる。
私の仕事中に変なキーィキーィした揺れるような音も聞こえない。
私は堅人の一連の行動からあることを察した。
あの目を閉じて頭の中でだけ部屋を回るというゲームをした時、堅人は何かを見たのだ。たぶんあの北の部屋で。
一体彼は何を見たんだろう。
あたしは聞こうかどうしようか悩んだけど、でも止める事にした。
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