第1章

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 ふと、なにか嫌な予感が頭を掠めた。  そういえば、ここではまだあのゲームしてないなぁ。  するべきか否か。    いや、堅人も元気になったし、ここは大丈夫。  私はもうその事は忘れて仕事に没頭しようとした。  そんな時だ。  キーィキーィ。  どこかの部屋で、何かが揺れる音がした。  あたしはぎくりとした。  うそ……。いる?  その音が勢いを増している気がする。  それがギィーギィーと大きくゆれると、いきなりドスンと落ちた。  私の心臓も同時に跳ね上がる。  しばらくの静寂。  そしてそれは今度はズーリ。ズーリ。床を這いずりだした。  時折のた打ち回りながら、這いずる音が変わってくる。  ああ、この感触は、フローリングの廊下に出てきちゃったみたい。  廊下をズーリ、ズーリ。  そして、キッチンあたりをゆっくり移動してくる。  ズーリ、ズーリ。  その先に私の部屋がある。襖は開いたままだ。  そして、その音の正体はとうとう私の部屋の前で止まった。  やっぱり、何かいる……。  私は全身に汗をかきながら最大限に勇気を振り絞り、手をぎゅっと握りつつもおもむろに振り返る。  何もいない。  何、なんなのよ、なんなの?!  どうするか、どうするか……。  ゲームでは何もいない? いるような気がするけどいない?  実はあたしね、今、目を閉じたままなの。  まさにあの部屋を回るゲームをしようとしてたの。   堅人も元気になったし、あの音は気のせい。  ここは大丈夫って。  でも怖くてしばらく机の前で、仕事に没頭しているイメージを頭に思い浮かべていた。  なのに……。またあの音……。  いるって思ってるのに、頭の中ではなにもいなかった。  それじゃ、今まだ聞こえている、このリアルなズーリズーリした音はなぁに?  ここで目を開けるかどうするか……。  あたしは生唾を飲み込み、覚悟を決めた。  そして、振り返りながら、そっと目を開け……。
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