第1章

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あたしは意外にも歓迎された。 智樹さんの案内コースにもきちんと組み込まれていたらしい。今日は時間切れだったけど。 それを聞いてかなり安心した。 こんな秘密通路でつながっている地下の部屋を隠されでもしたら怪しすぎるけど、おおっぴらならなんの問題も無い。だっこしていた航くんを下におろすと、喜んで父親のもとへと駆けていった。 「おや、書庫からきたのかい?あれはふざけて作った通路でね。今では智樹と航 の秘密基地ごっこで活躍しているだけで、私もしばらく通ってないな。ここは正気道会館の地下なんだよ。ほら、会館のエレベーターであっちの入り口から入るんだ」 あたしはだいぶ拍子抜けした。たしかにガラスの自動ドアの向こうにエレベータの扉が見える。秘密基地の種明かしをされてしまったけど、この部屋の設備はあたしの興味を大いに引き、操作盤を覗き込んだ。 「これはいったいなんですか?」 操作盤の前に座っていた人がおもむろに立ち上がって挨拶した。 「昨日はご挨拶もせず失礼いたしました。私、井上さんにはとてもお世話になっていた斉藤と申します。菜月さまにお会いできるのは光栄でございます」 と深々とおじぎをする。 「あ、それは、どうも。父がお世話になりました」 昨日のことを思い返しながら、慌てて挨拶を返す。そうだ。この人は車を乗り換えたときの小柄な男の人だ。 「せんえつながら、私がこのシステムの説明をいたします」 そう言って斉藤と名乗った男の人は、椅子に座りなおした。 「これは全国の、人間が発した『気』を探知するシステムです。『気』を使うのは登録制の申請方式。無届の使用者がいないか目を光らせているのです」 「へー」 あたしは感心して操作盤を見つめた。目に見えない『気』を探知する機械があるなんて驚きだ。 「全国の支所に探知機をそなえてあります。それらの情報が全てこの正気道会館 に集まるわけです」 いろんなスイッチやメーターが並び、複雑な装置であることだけはわかった。
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