第1章

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やっと、お屋敷の大きな玄関に到着した。 用意してもらっていたジョギングシューズを履き、外への扉を開ける。朝日がめいっぱい差込み、思わず目を細めた。 「さあ、いくぞ」 「うん」 あたしは太陽の光で後光のさす智樹さんににっこりとうなずいた。 智樹さんについていった公園は思っていたよりも大きく、緑豊かなところだった。中央に池があって、昼間はボートの貸し出しもしているらしく今は接岸されている。その池を囲むように並木道が整備されており、同じようにジョギングしている人や犬の散歩の人と何度かすれ違った。 朝日が木々の隙間から時折二人を照らして、目を細める。 ふいに智樹さんがあたしの方を向いた。 「ここにある自然のすべてから、気は出ているんだよ。それを感じながら走るんだ」 ふむふむ、ジョギングにはそういう意図もあったのか、と納得したけど、実際には難しい課題だった。 自然の気を感じる。 あたしは走りながらきょろきょろとあたりを見回した。木々や草花、大地、空気。入門書の矢印を思い出したけど、実際には目に見える矢印があるわけではない。五感で感じることができないものを意識するのは難しい。 あたしの挙動不審ぶりを見て、智樹さんは笑いながら言った。 「難しく考えなくていいよ。大地を踏みしめたり、花を綺麗だなって思ったり、この自然の中で呼吸しているだけで何か感じるだろ?そういうことでいいんだよ」 智樹さんは朝日の中で輝きながら言った。 走りながら大地を踏みしめる。コンクリートの固さとは違うわずかな弾力。 緑の中にひときわ色鮮やかに咲く花たち。その彩りに心が和む。 たくさんの木々の中の空気を取り込むと、体中が浄化されるようだ。 少しだけ、智樹さんの言ったことがわかったような気がした。 なんて、最初のうちは余裕だったのだけど、そのうち息が荒くなり、徐々に智樹さんのペースについていけなくなってしまった。 「うん、確かに運動不足だ」 智樹さんは笑いながら振り返り、そろそろ戻ろう、とやっと言ってくれた。
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