第1章

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       モンスター3 東京 午前5時27分 慈星総合病院  元日本人で日本で医師免許を取得したユージにとって、大病院の構造や医師たちが考える事など熟知している。  ユージは入院病棟最上階の、特別入院患者用フロアーにいた。  羽山がいるかどうか、疑問を抱く必要がない。怯える看護師たちと、廊下にある銃撃戦の跡、射殺されたスーツ姿の男たち…… 間違いない。すでにユージは自分がFBIであると病院側に伝え、さらに「テロリストがいる。自分が対応するし通報済みだ。避難活動せず各部屋に患者を押し込め待機しろ」と命じてある。その際、ユージは病院関係者を安心させるため、国際医師免許も見せている。  ユージは目的の部屋に着くと、施錠を確認せず、問答無用でサイレンサー付きS&WM&Pでドアを破壊し、弾の切れた銃を捨てドアを蹴り開けた。飛鳥と違いプロのユージはドアの破壊方も知っている。  飛び込むと、そこには突然の乱入者に驚き唖然としている松浦がいた。 「FBI、ユージ=クロベ捜査官だ。松浦医師、一切無駄口を言わず羽山を出せ」 「き、君は!」  ようやく突然の乱入者に、当然の反応をした松浦だが、ユージは有無を言わさず、強烈な鉄拳を松倉の顔面に打ち込んだ。さすが、といっていいのか、強烈な打撃だが鼻もアゴ骨も砕かず、松浦は口の中を切っただけだ。痛みと衝撃だけを与える、プロの拳だ。  ここは特別個室入院部屋で、ホテルのスイートルーム並の環境になっている。部屋も3つある。その中のどこかに羽山はいるだろう。部屋中央にあるテーブルとベッドの上には、傷を治療した跡や血痕があった。 「黙ってその場から一歩も動くな、松浦医師。お前の逮捕は後回しだ。動いたり一言でも喋ったら撃ち殺す」  その時だ。  病室に付いているユニットバス・ルームから、セシルを羽交い絞めにした羽山が姿を現した。羽山の左手には、セシルの銃が握られている。 「…………」  想定通りだった。セシルが周辺にいない時点で人質になっている事は分かっていた。  おそらく、看護師あたりを人質にしてセシルを投降させたのだろう。でなければセシルほどの戦闘力を持っている諜報員を日本の裏世界のボディーガードたちでどうこうできるはずがない。普段の任務ならともかく、今のセシルはユージの助手で強硬手段は取れない。人質を取られれば降るしかできない。
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