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「ハルも辛かっただろ。俺たちも、あの時を境に変わってしまった。」
ヨウジさんたちが二十歳、あたしが14歳の時だ。お父さんの事件は、沢山の人の人生を変えてしまった。
秋実と中川の間には、遺恨が残り、4人の仲も壊れてしまった。
それから10年間。
それぞれが、心に荷物を抱えて生きてきた。
中川が、失くしたものを取り戻すために選んだ道。
秋実が、あたしを抱えて生きて行くために選んだ道。
ヨウジさんが、秋実と共にいるために選んだ道。
理解しているつもりでも、こうやって言葉にすれば、重くてあたしは潰れそうになる。
ひどい別れ方をしたけれど、兄さんは、ずっとあたしを守っていてくれた。
ヨウジさんだって、いつもあたしに手を差し伸べてくれる。
秋実兄さんがいなければ、あたしは生きてはいけないと思っていた。
ずっとついて行くはずだったのに。
あたしは、本当に愚かだった。
自分だけが辛いと思っていた。
切なくて、目を伏せて唇を噛む。
「ハル。」
ヨウジさんの声に、引き戻される。
「タツヒコは本気だよ。」
秋実に思いを馳せる心に、不意打ちの様に中川の名前が出て、あたしは戸惑う。
「本気?」
「タツヒコが女を傍に置くのは、初めてのことだよ。
付き合いのあった女は切って、今はハルだけ。
ハルが絡んでいた揉め事は、秋実に代わって始末をつけたし。
組のジジイ共にも、ハルは自分の女だって宣言した。」
呆然とするあたしに、畳み掛けるようにヨウジさんは続ける。
「わざわざ昔の話をハルにしたのは、どうしてだと思う?」
「憎み合う様な間柄になってもおかしくない。それでもアイツはハルが好きなんだよ。」
「ハルが表だってこの店に関わるってことは、意味、わかるよね?」
そんなことを聞かれても、困ってしまう。
「わかんないよ、ヨウジさん。」
「周りのハルを見る目も変わってくるだろうし。」
「中川の店で仕事をする、、情婦(おんな)ってこと?」
「タツヒコはね、秋実を含めて、世間に、ハルが自分の女だって知らせたいんだよ。」
「ヨウジさん、あたしには無理。それはダメだよ。」
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