28人が本棚に入れています
本棚に追加
世の中って、弱い人間には、残酷にできている。
新しく店を任せた中川の女が、“あの事件の関係者”だと指差されるかもしれないと思うと、怖い。
結局あたしは、自分が傷つくのが怖いだけなんだ。
ダメ。できない。
ぽとん、と涙が落ちた。
「ハル、大丈夫だから。アイツは全部知ってるよ。それでもハルを選んだんだよ。」
「あたしが、ダメなの。自分が傷つきたくないから。」
「タツヒコは、ハルを守ってくれるよ?」
「あたしみたいな奴には、そんな価値ないよ。」
「ハルッ!」
「あたしがどんなにズルくて弱い人間か、ヨウジさんは知ってるでしょ?」
「ハルはいい子だよ。」
「そんな優しい事言ってくれるのはヨウジさんだけ。」
目の中に溜まった涙で、前が見えない。
「ずっと、今みたいにヨウジさんの傍にいたい。だめ?」
パタパタと落ちていく涙が止まらない。
引き寄せられた先は、ヨウジさんの腕の中だった。
ふんわり抱き締められて、胸に顔を押し付ける。
「俺はずっと変わらないよ。ハルが大好きだ。」
「あたしもヨウジさんが好き。」
「俺たちの“好き”は、色んなものが混ざってるだろ?」
ヨウジさんが、自分のシャツを引っ張って、あたしの涙や鼻水を拭いてくれる。
お母さんみたい。
「家族として、友達として、もちろん女の子としても好きだよ。」
「うん。」
背中を撫でる掌が暖かくて、呼吸が落ち着いてくる。
「ハルは、今みたいのがいいって言うけど、今ハルの傍にいるのは、俺だけじゃないだろ? タイやコウや、タツヒコも含めての“今”だろ?」
「ヨウちゃん・・・」
顔をぐりぐり押し付けるから、ヨウジさんのシャツがファンデーションと涙と鼻水だらけになる。
「自分に自信持てよ、ハル。卑屈になるな。」
「どうしたらいいの?」
「ハルは、タツヒコのこと、好き?」
「言いたくない。」
「ぶっ、何それ?言いたくないってどういう事?」
「ヤダ!言わない。ぐすっ。」
ヨウジさんに抱き付いたまま、イヤイヤと首を振る。
「困った娘だねえ。」
「だって、(ズズッ) さ、ひっく。」
嗚咽が止まらない。
「ハル、大丈夫か?」
「うっ、ぐすっ、だっ、ぐすっ、じ、ぐすっ、ぶ。」
「あー、泣くな、ハル。悪かったよ。」
ヨウジさんは悪くない。
ぶんぶんあたまを横に振る。
「ハル、階上(うえ)に行こう。タオルで冷やさないと。おいで。」
最初のコメントを投稿しよう!