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ーーータツヒコーーー 「あのですね。」 抱き寄せた腕の中で、真面目な声で話し始める春野。 何だ?何かあったのか? 部屋で待っていた春野は、お帰りのキスをくれる。 やっと春野から、キスを唇にしてくるようになった。 長く待たされた後に、思いがけず豪華なプレゼントをもらった子供のような。 キスが頬から唇に変わった最初の時、俺は春野を抱えて、ぐるぐると回転して部屋中を回った。 春野から、唇にキスをしてくる。 春野から。 今時、高校生でもこんなことで喜んだりはしないだろう。 けれど、嬉しいと思う心を、俺は抑えることができない。 今も、玄関で俺を迎えて、抱き付いてきてキスした。 唇に、3回。 けれど、この声色。 「どうしたんだ?」 靴を脱ぎかけた俺を、春野が押しとどめる。 「まだ、上がっちゃダメ。」 部屋に上がるな、というのか? 何故だ? 一瞬で閃いて、怒りが頭を突き抜ける。 春野を押し退けて、強引に奥へ進んだ。 どこだ。 どこに隠した。 ベットルームから、風呂、トイレの中。 春野の部屋と、クローゼット。 ハンガーにかかった洋服を全部蹴散らして、奥も探す。 いない。 玄関で立って、呆然としている春野を見る。 「どこに隠した?」 刺々しい声しか出ない。 「・・・何?」 「男を連れ込んだんだろう!」 怒りに任せて言い放つ。 春野の顔が、疑問形から怒りへ、それから落胆に変わるのを見て、俺は自分の間違いに気付いた。 くるっと後ろ姿を見せて、靴も履かずにドアを出ようとする春野。 捕まえて引き戻す。 「離してよ。」 声とともに、腹に衝撃。  「痛っ!」 春野が手首を押さえて前屈みになる。 俺を殴ったのか? こぶしで? グーパンチってやつか? それで怪我してるのか? 全く、この女ときたら! おかしくて笑えた。 「何笑ってんのよっ(怒)!」 その後怒り狂う春野を宥めながら、タイの運転で医者へ行き、治療を受けさせ、その間も機嫌を取り続けた。 弁解の余地もない俺は、ひたすら謝り続け、その様子は皆に知られてしまう。 俺が誤解して、怒った春野がパンチをして、怪我をして。 格好の話題を提供してしまった。
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