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19 #2
ーーー春野ーーー
「付き合ってるの?社長と。」
「コーヒー注文しながら言う質問じゃないですよ、それ。」
あたしは苦笑しながらさらりと流す。
「じゃあ、これも頂戴。」
チョコとナッツのクッキーを指さして、にっこり笑う人。
「はい、百円です。」
負けずにあたしもにっこり笑って代金を受け取る。
「で、どうなの?」
お釣りを渡しながら、目の前の人をもう一度見る。
綺麗な目だ。曇りがない。
近くに新しくできたお店で働いているらしい。
あたしより少し年上?
雰囲気があって、綺麗な人。
コーヒーを買いに、ここ1ヶ月、ほぼ毎日来てくれてる。
「そういうのじゃありませんから。」
「またまた、お互いにあんなに好き好きオーラ出しちゃってるくせに。」
「はは、でも、付き合ってほしいって、言った事も言われた事もないですから。」
セロファンに入ったクッキーと、コーヒーを出して、もう勘弁して、とアピール。
「あは、ごめんね。じゃ、またね。」
鮮やかな笑いを残して店を出ていく。
言い方によっては、気まずい空気になってもおかしくない話題を、さらりと流して綺麗に引き上げる。
同じような事を聞かれても、“タダ券のゆいちゃん”とは大違いだ。
あの子と比べるなんて、失礼なことしちゃった。
レジスターの、1から0の数字を見ながら、ひとり反省会。
レイ先生に感じた違和感や、ゆいちゃんの時みたいな警戒心もない。
例えそうだとしても、あたしはコーヒーを売るだけだ。
大丈夫。あたしはダイジョウブ。
次のお客さんがくるまで、あたしは10個の数字だけを見ていた。
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