23人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーータツヒコーーー
俺はまた間違った。
ヨウジにガツンと言われて、はじめて気付いた。
秋実と決別してから、春野は元気がなかった。
暫く傷が癒えるまで、なるべくそっとしておこう、大事にしようと思った。
秋実とのやり取りは、詮索しないことにした。
身の回りをあれこれ気遣い、春野の体の負担にならないように、少し距離を置いた。
春野は何も言わなかった。
全部裏目に出た。
「タツヒコ、お前は、ハルには相応しくないよ。」
「お前みたいな男にはもう無理だから、ハルは諦めろ。」
石つぶてのような言葉を浴びながら、この数週間の春野を思い出す。
ここに心がないような希薄さ。
秋実の件で沈んでいたのでなく、俺に対しての失望、諦めだったのか?
俺の気持ちは通じていると思っていた。
自分の中から、冷静さがどんどんなくなっていく。
「気遣ってるつもりでも、ハルにわかってもらえなきゃ、クソだ。
意味がない。お前、思い上がってたんだろ。ハルが何でも受け入れると思って、自分勝手に押し付けたんだろ?」
「気を使って、そっとしておいたつもりかもしれないが、ハルは見捨てられたと思ってるよ。」
「今のハルはな、ぴったり閉じた貝だな。お前のせいでな。」
憐れむ様な目で俺を見るヨウジに尋ねた。
「どうしたらいい?」
「俺に訊くのか? 知らねえよ。」
「自分の怪我を、絶対にお前に知らせるなって言ったハルの気持ちをせいぜい汲んでやればいいさ。今迄みたいにそっとしておいてやれよ。」
「ハルはしばらく預かる。お前もその方が都合いいだろ?」
どうしたらいいかわからないまま、気が付けば車の鍵を握っていた。ただひとつわかる事は、今春野の手を離せば、もう2度と届かないかもしれない瀬戸際だという事。
「許してもらえなくても、俺は春野を離さない。それだけはできない。ありがとう、ヨウジ。」
じっくり考えてる場合じゃない。
とにかく春野のそばに行こう。
喉が絞られるような苦しみを感じながら、俺は車を走らせた。
最初のコメントを投稿しよう!