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追いかけてきたヨウジと2階へ上がっていくと、春野は、隠れるように丸くなっていた。
静かに近づく俺の後ろで、ヨウジが大きな声を出す。
「ハル、起きろ!タツヒコが来たぞ。」
ビクン、ガバッと起きた春野。
俺とヨウジを見て、大きく目を見開いた後、
「ごめんなさい。」
と言って下を向いた。
こんな顔をさせたかったわけじゃない。
春野は俺の顔を見ようともしない。
「大したことないの。ちょっと転んで。」
毛布をたたみ始めた春野の足元。
包帯の白さが目に刺さる。
「春野?」
「お騒がせしてごめんなさい。ほんとにもう大丈夫だから、中川さんは仕事に戻って。」
中川さん?
俺のことか?
「ハル、今日から暫く俺ん家に来なよ。いいだろ、タツヒコ?」
「いいわけないだろ、帰るぞ春野。」
ヨウジは本気で言ってるのか?
「今日はヨウジさんの家に泊まりたい。」
春野までどうしたんだ?
本当に俺はもう間に合わないのか?
「決まりだな。」
飄々としているヨウジを睨む。
駄目だ。
絶対に許さない。
「誰にも渡さない。春野は俺のものだ。」
春野の手を掴んだ。
「帰るぞ。」
「ヤダ。嘘つき。あたしのことなんか、もういらないくせに。もうほっといて。あたしはヨウジさんのとこに行くの。」
やっとまともに喋ったと思ったらこれか?
春野の前に腰を下ろして、無理やりに目を合わせた。
「逃げても連れ戻す。閉じこめて外に出さない。それでもだめなら、春野を殺す。」
両手を取って、唇を付ける。
「春野、もう俺のこと好きじゃないのか?嫌いになったのか?」
「好きじゃないのは、タツヒコの方じゃない。うっ。」
ポトン、ポトンと涙が落ちてくる。
「俺は春野が好き。春野がいないと生きていけない。考え過ぎて、いろいろ間違った。ごめん。春野、ごめん。」
「もう、どうしたらいいかわかんない。ぐすっ。」
「帰ろう、春野。一緒に帰ろう?」
「ヤダ。足が痛くて動けない。」
「うん、春野は何もしなくていいから。」
抱き上げた春野の軽さに驚く。
春野との食事すら避けていた自分を心で激しく罵った。
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