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タツヒコは優しい。
お父さんみたいに、お母さんみたいに、お兄ちゃんみたいに。
相変わらずあたしは、風邪をひいたり、貧血を起こしたり、お腹を壊したり、まあ、色々でしょっちゅうヨレヨレしている。
そのたびに、タツヒコは介抱してくれて、タイやコウは用事を言いつけられる。
客商売なんだから、風邪菌くらいもらうさ。
女だもん、毎月血が足りなくなる日があるし。
食べるの大好きなんだから、ついついたくさん食べたりするんだよ。
これが生きてるって事でしょ?
かいがいしくあたしの世話をするタツヒコに、感謝してる。
でも、あんまりあれこれ指図されると、逆らいたくなる。
薄着過ぎるとか、ひざ掛けしなさいとか、細かいよ。
毎日体重測れとか、今日は増えたか減ったか、いちいち聞かないでほしい。
タイとコウに、あたしの生理日バラさないでほしい。
肉食べなさいとか、野菜も、なんて言わないでほしい。
みんなあたしのことを思ってのことなんだから、文句も言えないけど。
わかってるけど。
すっかりお母さんキャラになっているタツヒコに、馴染めてないあたし。
あたしは幸せだ。
毎日ごはんが食べられて、住んでるところは快適マンション。
運転手つきのお出かけで、エステなんかにも行っちゃってる。
お金の心配もする必要ない。
むしろ、不相応な位のお給料が振り込まれてる。
あたしにだってその高額さの意味はわかる。
だけど最近、タツヒコがあたしに触れない夜が多くなった。
帰ってきて、アイスを冷凍庫に入れて、お休みの羽のようなキスをして、自分の部屋へ戻っていく。
帰ってこない日もある。
壊されるくらいに抱かれたあの夜が、幻のように思える。
ゆっくりと、穏やかに、1回だけ。
そんな抱き方をするようになったタツヒコ。
最初の頃に戻ったという訳じゃないけど、何かが変わった。
タツヒコは優しいし、あたしを大事にしてくれる。
だけど、あたしが欲しい“好き”は、もうタツヒコの中にはないのかもしれない。
ひたひたと浸みてくる予感は、あたしの全身に行き渡って、もう気付かないふりはできそうになかった。
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