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ーーーテツハルーーー
レジを見たまま、ハルちゃんが動かない。
もう10分以上、そこに立ったままだ。
こっそり伺う横顔は、何を考えているのか、だんだんとせつなげになっている。
カズを見たら、眉間にしわを寄せてハルちゃんを見てる。
俺の視線に気づいて、合図してきた。
「ハルさん、休憩行きなよ。」
ハッと、顔を向けたハルちゃんが、
「あ。」
と言ったきり、オレの顔を見たまま黙ってる。
きっと心の中で、
“何やってんの、自分のバカバカ!テツさんが驚いてるじゃない。”
とか思いながら、慌ててるんだろう。
「ヨウジさんのお土産、冷蔵庫に入ってるから、食べてきな。」
オレは知らんぷりで言葉をつづけた。
「うん、ありがと。じゃ、お願いします。」
下を向いたまま、ハルちゃんは階段を上って行く。
ヨウジさんが出ていって、空き部屋になった2・3階。
2階は休憩スペースに変えた。
ガタッという音と、“きゃっ、痛っ!”がほぼ同時に聞こえてきて、
カズが、ものすごい速さで階段に駆け寄る。
後を追ってオレも階段まで走る。
昇り切ったあたりでうずくまるハルちゃんと下から支えるカズが見えた。
立てないハルちゃんをカズが抱えて運び、ソファに座らせた。
黒いタイツが破れて、覗いた白い脚から、血が滲んでいる。
「痛いのは、ここだけ?」
「うん。ドジしちゃった。」
「一応、山岡先生に診てもらうか。テツ、中川さんに電話してくれるか?」
「だめ!電話しちゃダメ!」
ハルちゃんがすごい勢いで遮った。
「テツさん、やめて。ダメだから。」
「ハルちゃん?」
血の気のない唇が震えて、泣きそうな顔になっている。
「お願い、テツさん。カズさんも。連絡はしないで。」
「あたし、大丈夫だから。仕事の邪魔になっちゃう。」
「そんなに痛くないし、平気だから。お願い。」
今にも涙がこぼれそうになっている瞳。
「わかった。じゃあ、傷の手当だけしようか。」
「平気。あとで自分でやれるから。」
「ハルちゃん。手当して、休んだら、いつもの時間に送っていくから。それならいいだろ?」
カズがなだめる様に言う。
ハルちゃんは、こくっと頷いた。
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