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「ハール。」
眠っているハルに、敢えて声をかける。
ほっといたら、明日の朝まで寝続けるかもしれない。
「ようちゃんが来たぞー。」
もそもそと、寝起きのハルの顔が出てきた。
「ようちゃん?」
「そうだよ。怪我、大丈夫か?痛くない?」
「うん、平気。テツさんが?」
微妙な間の後で、慌てて話し出すハル。
鎧は固いか。
「そうだよ。ハル、そうやってると、芋虫みたいだな。」
「やだ、ようちゃんってば。あはは。」
よし、笑った。
ハルが体を起こして、毛布をたたみ始めようとする。
「そのまま足に掛けてなよ。」
押し留めて、寝乱れたハルの髪を梳いた。
表情が暗いな。
目に輝きがない。
「階段でコケるなんて、ハルは相変わらずだな。」
「終わったはずの階段が、もう1段あった、みたいな?はは。」
握った毛布を見たまま顔が上がらない。
「ハル、大丈夫か?」
「・・・うん。」
全然大丈夫じゃねーよ。
タツヒコは何やってんだ?
テツもカズも、わからないのか?
“絶対に中川に連絡しない”を交換条件にして、ハルは薬を飲んだ。
傷の痛みと、頭痛の予兆で、薬を飲むべきなのに。
クスリが効いて、眠ってしまうことを恐れてた。
自分が寝ている間に、テツとカズがタツヒコに怪我のことを知らせたら困るからだろう。
タツヒコに知らせが行って、怒られるのが嫌なのか?
違うな。
タツヒコは、仕事を放り投げてハルのところへ来る。
それが嫌なんだろう?
面倒をかける自分が嫌なんだろう?
「頭痛は?」
「痛くないよ。」
「足の方は?」
「ちょっとズキズキするだけ。」
心はどうなんだ、とは聞けない。
「時間まで、もうちょっと休むか。」
「うん。」
元気がないから、ハルは従順だ。
「ちゃんと起こしてやるから、安心してな。」
「ありがとう。」
もう1回、ハルを芋虫にして横にする。
音をたてないように階段を下りて、テツとカズを顎で呼んだ。
カウンターの外、1番奥まった席まで行き、座りながら2人を睨んだ。
「説明してもらおうか?」
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