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20 #2
ーーータツヒコーーー
春野の周りは、いつも落ち着きがない。
古泉と加藤を連れて、ヨウジの店に行くと、酔っ払いが3人。
春野とヨウジとタイ。
いつも酔うのはこの3人だ。
他の連中も同じように飲んでるはずなのに。
酔っ払いとコウ、4人でトランプ?
ババ抜き?
何がそんなに面白いんだ?
ああ、春野だ。
引いた札が、ババかそうでないか丸わかりの表情。
周りの3人にもわかってるはずだ。
あ、春野がババを引いた。
そんなに1枚の札だけじっと見ていれば、バレバレだろう。
隣のコウが札を抜くと、がっかりしている。
ババは残ったままだ。
春野は恨めしそうな顔。
百面相のハルもかわいいもんだ。
周りの空気を柔らかくして行く春野。
春野がいるだけで楽しい。
春野が楽しそうにしていれば、俺はもっと楽しい。
今日はタイやコウと映画に行くと言っていた。
楽しかっただろうか?
子供の頃は引っ込み思案で、いつも秋実とヨウジの後ろに隠れていた。
中学の時に引き籠って、4年くらいは、ほとんど外出をしなかったらしい。
ひっそりと育った花。
“蕾の頃から、匂いを嗅ぎつけた虫が結構いてね”
ヨウジが苦笑交じりに話してくれた。
“秋実とどれだけ虫退治をしたことか”
秋実とヨウジが、必死に虫を追い払う姿をイメージして、おかしくなった。
俺のとなりに来て、“あのね、今日ね”と話し始める春野。
うん、春野が言うなら、西から太陽が昇っても楽しいだろう。
今日着ているセーターは、いい買い物だったな。
後ろ姿が綺麗に見える。
そして、間近にいる人にだけ見える胸の谷間。
シミひとつない白い肌。
ゆうべ春野が、俺の手を引いて、ベットまで歩いた。
ネクタイの結び目に指を差し込んで。
つま先立ちでキスしながら、俺の名前を呼んだ。
水鏡のような瞳。
震えながら誘う唇。
微かな照明の中で、浮かび上がるような、艶めいた肌の白さ。
体中に纏わりつくような甘苦しい春野の匂い。
記憶が俺の体を縛り上げて、息苦しくさせる。
「行くぞ。」
驚いた春野の瞳。
呆れ顔のヨウジ達。
まとめてほうり捨てて、春野と2人で店を出た。
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