19人が本棚に入れています
本棚に追加
好きな時間に寝て、目が醒めるまで寝続ける日々。
テレビと、ネットと、そんなもので微かに世界と繋がってる気になってた。
中学2年の途中から、あたしは不登校の引き籠りになった。
秋実以外は、家族も友達もいなかった。
気まぐれでイジワルな秋実に、どれだけ泣いただろう。
時々来てくれるヨウジさんと、真夜中のコンビニで買い物。
嬉しくて楽しくて。
洋服や、お菓子、ちょっとしたかわいい小物なんかをお土産に持って来てくれるヨウジさんを待っていた。
今ならわかる。
あれは、あたしを心配するヨウジさんの思いやりだったって。
秋実の指図とかじゃない。
いつ終わるのかわからないトンネルを歩いているような日々に、ヨウジさんは風を運んで手を引いてくれていた。
今ならわかる。
責めるでも、励ますでもなく、ただ、ヨウジさんはあたしを見守っていてくれたって。
あたしを信じていてくれたって。
気付けてよかった。
感謝できる自分になれてよかった。
ひとりの家で、秋実を待ちながら、記憶を頼りに作った料理たち。
よく、ヨウジさんと2人で食べていた。
夏の冷たい茶碗蒸し。
玄関ですぐにわかるカレーの匂い。
誕生日のちらしずし。
寒い日の白玉のぜんざい。
家じゅうにおでんの匂いがした日。
クッキーが焼ける時の、甘い香り。
食べ物と、幸せの記憶は、繋がっている。
子供の頃を思い出しながら作った幾つもの味は、あたしとヨウジさんの、新しい思い出になった。
ヨウジさんがいてくれて、本当に良かった。
いつかこの気持ちを伝えたい。
ヨウジさんに返したい。
最初のコメントを投稿しよう!