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ーーー春野ーーー
「そこまで連れて行っておいて、“嫌か?”はないと思わない、ヨウジさん?」
ヨウジさんがマカロンを持ってきてくれた。
お気に入りの紅茶を飲みながら、お店の2階でおやつタイム。
「だいたい、帰るまで我慢できないのか、お前はコーコーセーか、だよね?」
鮮やかな緑色。ピスタチオ。
「ハル、男は急に止まらない、なんだよ。」
ヨウジさんは、クリームがかった黄色。レモン。
「ぷぷ、車じゃあるまいし。」
「男なんて、そんなもんだよ、ハル。」
ヨウジさんの店で飲んでいたのに、みんなを置いて、さっさとあたしを連れ出して、ホテルへ行ったタツヒコ。
「だってさ、こっちだって、恥ずかしいよ。ここまで来てそれ訊くの?って言うか。」
口の端に付いたカケラを、ヨウジさんが教えてくれる。
ペロッと舌で絡め取って食べた。
「みんな、変に思ったよね?」
「ハル、今さら何言ってんだよ。あれ位じゃ誰も驚かないって。」
「そうなの?」
「試しにテツにでも聞いてみれば?」
「なんて?」
「あれからあたし達どこ行ったと思う?とか。」
「いやー、ムリ。」
「ははっ。」
ヨウジさんがまだ笑ってる。
「そんなにおかしい?」
「いや、ハルも大人になったな、と思って。」
年齢のことじゃない。
なんとなくあたしにもわかる。
「ヨウジさん、ありがとう。」
「ん、何が?」
「今までの全部。上手に言えないけど、やっとわかってきた。ヨウちゃんが、いっぱいあたしを大事にしてくれてたって。」
「ハル。」
「ヨウちゃんの老後の面倒はあたしに任せてね。」
「ハルゥ。」
「でも、まだまだ先の話だね。これからもよろしくね。」
「お父さんを泣かすんじゃないよ、ハル。」
「うん、もう一個食べていい?」
「もう、あるだけ食べなさーい。」
無理むり、そんなに食べれない、冗談だよ、全部食ったら豚だぞ。
誰かと話ながら飲むお茶はおいしい。
あたしは幸せだ。
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