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ーーー春野ーーー “おいしいね。” ワインで頬を紅くした春野が、デザートのスフレを食べている。 朝から目を白黒させてばかりいた春野が、やっといつもの笑顔になった。 話に夢中になって、食事のスピードが遅くなる春野をやんわり急かして、やっと最後のデザートに辿り着いた。 コーヒーを飲みながら、春野が最後のひと口を食べ終わるのを待つ。 食事の支払いは済ませて、予約をしておいた部屋のカードキーはポケットの中。 ソーサーに添えた左手に光る指輪。 赤い石のネックレスが、白い胸元に映える。 俺の春野は綺麗だ。 変に気取る事もなく、素直に料理を楽しむ。 立っていても、座っても、伸びた背中が春野を優雅に見せている。 “ありがとう”と、ウェイターに自然に声をかけて空気を柔らかくする。 ここ1年くらいで、花が開くように美しくなった。 これからもっといい女になっていくだろう。 法律の上での縛りに大した意味はないと思いつつ、春野を自分のものにするためなら、俺は何でもやる。 昨日の夜、俺の話を聞いた後、春野の表情がくるくる変わるのを見て、心を決めた。 『来月になったら、何がどうなるんだろ。あたし、借金とかしてるのかな?』 『だってあたし、あれだけアイス食べておいて、お金払ってないもん。』 『車も壊したし。』 自分の価値がわかっていない春野は、的外れな事ばかり言う。 悠長に待っていては、この娘はどこかへ飛んで行ってしまうかもしれない。 約束の2年が過ぎれば、自分を縛るものがなくなると、気付いてさえもいない春野を絡め取ってしまおう。 あとでいくらでも怒ればいい。 “家賃を払っていない。” “俺が秋実に払った金は返す。” 目を醒ました春野の言葉に、俺はもう1日も待てないと思った。 『急すぎない?』と戸惑う春野とは逆に、やっとここまでたどり着けたと思う俺。 春野の全てを自分のものにしたいと思い始めてもう1年。 遅すぎたくらいだ。 「ちゃんと食べたな?」 「うん、おいしかったね。」 やっと俺が春野ちゃんを食べる時間が来た。 俺は心の中で舌舐めずりをした。
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