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ーーー春野ーーー あたしを見るタツヒコの目が真剣で。 早鐘のような胸の鼓動が伝わってきて。 「春野、返事をくれないのか?」 あたしは素直に自分の気持ちを伝えた。 “愛しています。” 伝える人がいる幸せ。 あたしを抱きしめるタツヒコの手から、体から、こぼれ落ちている喜びのかけら。 世界一幸せなのは、あたしの方だ。 タツヒコの背中に回した手に力を入れた。 胸に顔を押し付けて、タツヒコの匂いを確かめる。 「春野。もう他の男のシャツで、涙を拭くんじゃないぞ。」 「シャツ?」 「泣くときは、ココで泣け。いいな?」 「うん。」 「春野。」 「ん?」 「愛してる。」 「うん。」 「春野は?」 「好き。大好き。」 ぎゅっと抱き付いて、また顔をすりすりした。 「タツヒコ、あたし、嬉しくて幸せで、どうしたらいい?」 「俺もだ。今なら、空も飛べそうだ。」 そんな訳ないじゃん、くすくす、と笑う。 「そうだな。ちょっと早いけど、風呂に入って、支度して出かけるか。」 「どっか行くの?」 「ああ。」 2人でシャワーをして、買い置きのパンを食べて、カフェオレを飲んだ。 タツヒコが“用事を済ませてくる”と言って出かけている間に、顔を塗ったり、メールチェックしたり。 帰ってきたタツヒコがテーブルに置いたのは、婚姻届。 あたしの口は、全開状態になる。 「タツヒコ?」 「春野、座ってくれ。」 あたしをソファに座らせて向き合ったタツヒコは、床に膝をついた。 「春野。結婚を承諾してくれてありがとう。ずっと一緒にいよう。」 左手に、キラキラ光る指輪をはめる。 「こんな時間にお店、開いてるの?」 「これは前から用意していた。あとで、結婚指輪を選びに行こう。」 「え?」 「今ヨウジのところで、署名を書いてもらってきた。ちゃんと“お父さん”の許しも貰ったから。」 あたしにペンを差し出す。 「これを書いたら、まず役所だ。」 「え?」 「パスポートの手続きも。」 「え?」 「銀行はそのうち行けばいいか。」 「え?」 プロポーズから5時間で、あたしは中川春野になった。
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