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用意周到。 タツヒコとあたしは、区役所の窓口に婚姻届を提出した。 婚姻届の他に必要な謄本もタツヒコが事前に取り寄せていてあたしは驚く。 この人、いつから準備していたんだろう。 『お疲れ様でした。』 届を受け取った職員の言葉に、あたしはこっそり笑う。“お疲れ様”なんだ。 あたし達は夫婦になって役所を出た。 あまりのあっけなさに、実感がわかない。 タツヒコの差し出した手に、掌を預けて、並んで歩く。 冬の朝。 空気は冷たい。 車で移動した先は、法律事務所。 担当だと言う弁護士さんがあたし達を待っていた。 “妻です。”と紹介されて、用意されていた何枚かの書類にサインをする。 『中川春野』 緊張して、うまく書けなかった。 「ねえ。」 我慢しきれずに、あたしは運転するタツヒコに話しかけた。 「なんでこんなに急なの?なんでいろいろ揃ってるの?いつから準備してたの?」 「うん。」 答える気はないらしい。 「今日仕事はいいの?」 「うん。」 働く気もない、と。 「春野も今日から休暇だ。」 「は?聞いてないよ。」 あたしに相談もなしですか。 「テツに連絡はしておいた。」 「テツさんに?なんて言ったの?」 「結婚休暇でしばらく休みを取る。」 「結婚休暇?驚いてたでしょ?」 「おめでとうございます、楽しんでください、だと。」 「それだけ?」 何を楽しむの? 「タツヒコ?」 「何だ?奥さん。」 「奥さん?あたし?」 「春野は俺の奥さんだろう?」 「恥ずかしい。」 珍しくタツヒコが声を出して笑ってる。 「俺は楽しいよ、奥さん。」 確かに今日のタツヒコはご機嫌だ。 こんなタツヒコは初めて見るかも。 昨日から今日までの怒涛の展開に、正直あたしの頭はついていけてない。 多分、考えるべきことは沢山あるはず。 でも、今は二人で呑気に幸せしていたい。
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